うつ病

双極性障害

双極性障害

双極性障害(Bipolar Disorder)は、気分の極端な変動が特徴的な精神疾患です。この病気は、主に2つの異なるエピソード、すなわち「躁状態」と「うつ状態」に分けられます。

  1. 躁状態(Mania): 躁状態の間、患者は非常に高揚した気分になります。この時、自己評価が異常に高くなったり、睡眠の必要性が少なくなったり、話す速度が速くなったりします。また、集中力が散漫になり、無謀な行動(浪費、性的無節操など)を起こすことがあります。
  2. うつ状態(Depression): この状態では、患者は憂鬱、興味・喜びの喪失、エネルギーの低下、不眠または過眠、食欲の変化、自己評価の低下、集中力の低下、死に対する考えや自殺念慮などの症状を経験します。

これらのエピソードは数日から数週間続くことがあり、時には数ヶ月に及ぶこともあります。双極性障害の診断は、これらの症状の歴史と患者の行動パターンを精査することによって行われます。

双極性障害の発症には複数の要因が関与しており、特定の人々がこの障害になりやすいという明確な特徴はありませんが、いくつかのリスク要因が知られています。

遺伝的要因

  • 家族歴: 双極性障害のある家族がいる人は、その障害を発症するリスクが高まります。親や兄弟姉妹が双極性障害を持っている場合、リスクは特に高くなります。

生物学的要因

  • 脳構造と機能: 脳の特定の構造や機能に異常があると、双極性障害のリスクが高まる可能性があります。これには神経化学的な要因も含まれる可能性があります。

環境的要因

  • ストレス: 高いストレスを経験すると、特に遺伝的な素因を持つ人々において、双極性障害の発症リスクが高まることがあります。
  • 薬物乱用: 違法薬物やアルコールの乱用は、双極性障害の発症と関連していることがあります。

発症年齢

  • 双極性障害は通常、若年成人期に初めて発症することが多いですが、青年期やそれ以降の年齢でも発症することがあります。

その他の要因

  • 性別: 男女の発症率はおおむね同じですが、症状の表れ方や病気の進行には性別による違いが見られることがあります。
  • 社会経済的状況: 一部の研究では、低い社会経済的状況が双極性障害のリスク要因となることが示唆されていますが、これは環境ストレスやアクセスできる健康資源の違いによるものかもしれません。

精神疾患は多面的な原因によって引き起こされるため、これらの要因のいくつかが存在する場合でも、必ずしも双極性障害を発症するわけではありません。また、これらの要因がない人が双極性障害を発症することもあり得ます。

治療には、薬物療法(気分安定剤、抗うつ薬、抗精神病薬など)と心理療法が含まれます。これらの治療は、症状の管理、病気の再発の防止、および患者の日常生活の質の向上を目指しています。以下に具体的な治療法を挙げます。

重要なのは、双極性障害は、治療改善による中断で再発率が1年で90%、自殺率が10-15%と非常に高い難治性で生涯にコントロールが必要な疾患であり、継続的な治療とメンタルサポートが必要であるということです。

薬物療法

  1. 気分安定剤: リチウムやバルプロ酸などの気分安定剤は、双極性障害の躁状態とうつ状態の両方に対して効果があります。これらは症状を軽減し、再発を防ぐのに役立ちます。リチウムとバルプロ酸の使い分けは、患者の特定の症状、既往歴、副作用の耐容性、および他の健康状態に基づいて決定されます。

    リチウム

    • 適応: リチウムは、特に双極性障害の躁状態の治療に効果的ですが、うつ状態や再発予防にも使用されます。
    • 作用機序: リチウムは神経伝達物質のバランスを調整し、気分の安定を助けます。

炭酸リチウム(リーマス錠、炭酸リチウム錠)の副作用

代表的なものとしては、神経系の症状(めまい、眠気、ふらつき、手の震え、しびれなど)、胃腸系の症状(のどの渇き、下痢、吐き気、食欲不振など)、皮膚の症状(にきび、発疹など)、腎臓の症状(腎機能障害、多尿など)、甲状腺の症状(甲状腺機能低下症など)、心臓の症状(徐脈、頻脈)などがあります。


・特に注意すべき副作用(リチウム中毒)

リチウムの体内での血中濃度が高くなると出現します。リチウムは0.4m~1.0mEq/ℓが治療域とされています。これは採血を行い、血中濃度を調べることで血中濃度を調べます。血中濃度が0.4以下であっても、状態が安定していれば無理に増量をすることはしません。しかし、症状が改善後は同じ量のリチウムを服用していても、血中濃度が変化する可能性があるため、注意が必要です。個人的には1mEq/ℓ付近以上になると、容量の見直しや早めに採血させていただくようにしています。また、血中濃度が正常範囲でも、リチウム中毒の症状がでることがあるため、副作用の有無を確認するようにしています。過量服薬をした場合は容易に中毒症状が出現します。発熱や下痢、脱水などの場合も注意が必要です。


併用しているお薬にも注意が必要な場合があります。

・痛み止めなどで処方される、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):ロキソニン、ボルタレンなど

・体のむくみをとるなどで処方される利尿剤である、サイアザイド系利尿剤:フルイトラン、トリクロルメチアジド、ヒドロクロロチアジド、バイカロン、メフルシド、アレステン、ノルモナール、テナキシル、ナトリックス等)など。ループ利尿剤:ラシックス、フロセミド、ダイアート、ルプラック、アゾセミド、トラセミド

・血圧を下げる、心臓や腎臓を保護する薬:①アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB):ニューロタン、ロサルタン、ブロプレス、カンデサルタン、ディオバン、バルサルタン、オルメテック、オルメサルタン、ミカルディス、テルミサルタンなど。②アンジオテンシン変換:酵素(ACE)阻害薬Ⅱ:エースコール、テモカプリル、タナトリル、イミダプリル、レニベース、エナラプリル、コバシル、ぺリンドプリルなど


・リチウム中毒で認められる副作用

血中濃度 副作用
軽・中等度の中毒域
(血中濃度1.5~2.5mEq/ℓ)
食欲不振、嘔気、嘔吐、下痢、振戦(ふるえ)
脱力、運動失調
重症の中毒域
(血中濃度1.5~2.5mEq/ℓ)
錯乱、昏睡、けいれん
血中濃度3.5mEq/ℓ以上 多臓器不全等

リチウム中毒含め、リチウムを内服している方の副作用には常に注意をしております。

そのため、定期的な採血を行い、定期的に血中濃度を測定することが望ましいと思います。

    • バルプロ酸

      • 適応: バルプロ酸は、躁状態、特に急速に気分が変わる混合状態や急性期の躁状態の治療に効果的です。また、リチウムに反応しない患者やうつ状態の再発予防にも用いられます。
      • 作用機序: 神経伝達物質の活動に影響を与えることで、気分の安定化に寄与します。

 


バルプロ酸(デパケンR錠、セレニカR錠、バルプロ酸Na徐放錠、バルプロ酸SR錠、デパケン錠、バルプロ酸Na錠)の副作用

下痢や吐き気、眠気、ふらつき、肝機能障害、血小板減少、白血球減少、体重増加などがみられます。


・注意すべき副作用(高アンモニア血症)

バルプロ酸内服により、血中のアンモニアが上昇することがあります(高アンモニア血症)。アンモニア値が上昇すると、吐き気や嘔吐、呼びかけても反応・傾眠傾向などの意識障害、けいれんなどの異常行動が見られることもあります。また、便秘が続くと、腸内細菌が産生するアンモニアの量が増加し、産生されたアンモニアを体内に吸収されて体内のアンモニア量が増えることがあるため、注意が必要です。そのため、内服初期や増量時には注意が必要なため、採血を実施し、アンモニアの血中濃度の測定、バルプロ酸の血中濃度や肝機能について確認をする必要があります(併せて、白血球や血小板なども測定し、異常がないか確認します)。アンモニアが高値の場合や肝機能障害などがある際は、バルプロ酸の減量や中止を行います。

  1. 抗うつ薬: うつ状態に対しては、抗うつ薬が処方されることがありますが、これらは躁状態を引き起こすリスクがあるため、通常は気分安定剤と併用されます。
  2. 抗精神病薬: オランザピン、クエチアピン、リスペリドンなどの抗精神病薬が躁状態や混合状態の治療に用いられることがあります。これらはまた、気分安定剤と組み合わせて使用されることもあります。
  3. その他の薬剤: 不眠や不安の症状がある場合には、睡眠薬や抗不安薬が短期間処方されることがあります。

心理療法

  1. 認知行動療法(CBT): 認知行動療法は、否定的な思考パターンや行動を特定し、それらをより健康的なものに変えることを目指します。
  2. 家族療法: 家族療法は、家族間のコミュニケーションを改善し、家族全員が病気の管理に関与することを目指します。
  3. 精神教育: 患者と家族に双極性障害について教育を提供し、治療計画の遵守を促します。
  4. 対人社会リズム療法: 日常生活のリズムと社会的な相互作用の改善に焦点を当てた療法です。

生活習慣の改善

  • 定期的な睡眠パターンの確立
  • 健康的な食生活
  • 定期的な運動
  • ストレス管理の技術

総合的なアプローチ

双極性障害の治療は、患者一人ひとりの症状、病歴、および生活状況に合わせてカスタマイズされる必要があります。また、長期にわたるフォローアップと治療計画の調整が重要です。患者自身の治療への積極的な参加と、医療提供者との継続的なコミュニケーションも治療成功の鍵です。

プライベートクリニック恵比寿では、

双極性障害に対する治療として、通常デパケンR錠(バルプロ酸)400mg1日1回寝る前に内服からスタートし、定期的な血液検査による最適濃度をチェックし副作用をコントロールしメンタル管理しています。1週間ほどで効果を感じやすいのが特徴です。双極性障害治療薬、気分安定薬のリチウムは痛み止めなど飲めず飲み合わせが難しく、治療幅が狭く治療までの効果に時間がかかるので、原則バルプロ酸を使用しています。

寝る前に内服するのは眠なりやすいという特徴があるためです。双極性障害の方は自身が治療が必要と気づいていない状態も多いので、再発率、自殺率を説明して定期的にメンタルコントロールを行いまうす。

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